コラム

中村丁次氏が、大柳治正記念学術振興アワードを受賞

2022.6.22

2022年6月1日、第37回日本臨床栄養代謝学会学術集会において、大柳治正記念学術振興アワード受賞記念講演が開かれました。

一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会が主催する大柳治正記念学術振興アワードは、同学会に多大な功績のあった会員の中から受賞者一名を選考し、学術集会で関連演者1名ないし2名とともに講演するもの。今年、受賞したのは中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学学長)。学会への貢献のみならず、日本栄養士会会長など、各種学会、公的委員を歴任し、臨床栄養の普及と啓蒙、後進への指導が評価されての受賞となりました。

中村丁次氏は『栄養の臨床研究と基礎研究のブリッジを夢見て』というタイトルで講演を行いました。この講演では、日本での栄養士制度設立の歴史、食物栄養学から人間栄養学への研究の歩みなどが紹介され、法改正により管理栄養士業務が、保健・医療・福祉に不可欠な存在として位置づけられるに至るまでの、中村氏らの活動が詳しく紹介されました。

また、中村氏が現在所属している神奈川県立保健福祉大学での教育や研究についても触れ、これからの福祉の現場では、専門領域を超えて相互に理解し合う、連携と協議の実践が必要だと説き、さらに同校では、働きながら生涯にわたり研究ができる仕組みを築きつつあることも紹介されました。最後に、教育機関と臨床機関が連携・協働し臨床栄養学を発展させるのだと力強くしめくくりました。

日本の栄養政策立案にまで携わってきた中村氏の歩みを振り返りつつ、中村氏が提唱し、東京栄養サミット2021でも紹介された「ジャパン・ニュートリション」の研究とその成果を、次世代につなごうという熱意が伝わってくる講演でした。

続いて、中村氏のふたりの元教え子が登壇しました。

まず、小栗靖生氏(京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻栄養化学分野)『栄養学的な熱産生調節の意義と応用』というタイトルで、講演しました。

小栗氏は、神奈川県立保健福祉大学で中村氏の臨床栄養学研究室で、「食事誘発生熱産生(DIT)」について研究され、そこで臨床研究と基礎研究のいずれも大切だということを実感したそうです。さらに最近の研究から、夜型生活や早食いが肥満につながるメカニズムや、数種類の熱産生脂肪細胞とDITとの関係などについて講演されました。小栗氏の研究は、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防・改善に寄与することが期待されるそうです。

続いて倉貫早智氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 栄養学科)『個別栄養管理システムの構築と実践』というタイトルで、講演を行いました。倉貫氏の研究の柱は大きく2つあります。ひとつ目は、「疾病と栄養管理」です。こちらの研究の一例として、パーキンソン病患者の栄養管理についての研究を紹介。これはパーキンソン病の主たる治療薬である「L-dopa」の補充療法を受ける患者に対しての食事療法確立に向けた、患者の栄養学的特徴と体重減少要因についての研究です。

2つ目の研究テーマは、「疾病予防システムの構築」です。まず、2型糖尿病に関連する遺伝子とヨーグルトの習慣的摂取による糖代謝の影響についての研究をお話しくださいました。

さらに、機能性農産物をすすめるための個人に対する栄養指導システムの開発についても講演されました。これは、医食農連携センターや栄養ケアステーションなどさまざまな施設が連携し、機能性を持つ農林水産物のデータベースの構築と、個人の健康状態に応じた栄養指導システムを開発しようという研究です。

倉貫氏のいずれの研究にも、「臨床研究と基礎研究の橋渡し」という中村氏の理想が根底に流れているように感じられました。

左から、中村丁次氏、小栗靖生氏、倉貫早智氏

最後に、座長を務めた山中英治氏(若草第一病院・外科)は、「臨床研究と基礎研究の橋渡しは、栄養学の世界だけでなく、われわれ医療の分野でも必要なことだと思いました」としめくくられました。

中村氏の理想とする、専門領域を超えて相互に理解し合う、連携と協議の実践ということが、さまざまな分野に広がっていくであろうことが実感できる授賞式となりました。

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