コラム

低栄養と過剰栄養の双方から考える新型コロナウイルス感染症対策〜中村丁次(日本栄養士会会長)

2022.3.16

コロナ禍の今こそ、栄養のチカラを知ってほしい

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが世界中で発生してまもない2020年4月3日、私は、「栄養のチカラで、難局を乗り切る」という動画を作成し、公益社団法人日本栄養士会のHPで公開しました。国民と管理栄養士・栄養士に向けて「感染症を予防・悪化させないために、食事に気をつけてください」と訴えたのです。

新型コロナウイルスに感染しないよう、免疫力を維持するには、しっかりとした食事で十分な栄養素を摂取することが大切です。ところが、外出自粛で買い物がままならなかったり、経済的な理由で食費を切り詰めざるを得なかったりすることで、無意識のうちに日々の健康的な食事のバランスがくずれてしまいます。

傾向としては、野菜、果物、肉・魚・乳製品などのタンパク質の摂取が減り、糖質や脂質の摂取量が増えてしまいがちです。つまり、コロナ禍による外出自粛で栄養状態が悪くなり、感染リスクをあげてしまっているのです。

食事のバランスがくずれて低栄養状態になると、細胞性免疫が低下するほか、自然免疫、液性免疫、サイトカイン産生の低下、生体バリア機構の脆弱化など、さまざまな免疫機能が低下し、これらが複合的な要因となって、感染症にかかりやすくなってしまいます。

【関連リンク】
低栄養患者における感染症
農水省「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている国民・若い世代の割合」(2011〜2018年度)
農水省「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている国民・若い世代の割合」(2019年度)
農水省「バランスのよい食事の頻度」(2020年度)

一方、慢性疾患を持つ人が重症化しやすいことは、The New England Journal of Medicineに掲載された論文『Matthew Belanger et. Covid19 and Disparities in Nutrition and Obesity, NEJMp2021264』(下の【関連リンク】を参照)をはじめ、 さまざまな論文で明らかになっています。

そもそも過剰栄養による肥満が、糖尿病や高脂血症、高血圧などの慢性疾患を引き起こし、それが重症化リスクになっていることに思い至れば、ここでもやはり栄養が大切ということがわかります。

肥満の人は、高血圧をはじめ、心血管機能や代謝機能に問題が生じますし、過剰な免疫応答も起こるようになります。これらの因子が複合的な要因となって、新型コロナウイルス感染症が重篤化させているのです。

感染リスクと重症化リスクの双方に、栄養状態が関わっていることが推測されるため、私は、コロナ禍が始まって間もない頃から、感染者や重症者の栄養状態を調べるべきだと提言してきました。そうすれば、今後、別の感染症のパンデミックが訪れたときに役立つエビデンスが得られると考えたからです。

参考になるのは、中国の武漢での調査です。武漢でCOVID-19患者182名に対し、栄養スクリーニング(MNA法)を行ったところ、50名に栄養不良のリスクがあり、96名はすでに栄養不良者で、合計すると、患者の8割が低栄養状態にあったといいます。

また、低栄養の患者は、BMI、ふくらはぎの周囲、血清アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数が有意に低値を示したということです。

【関連リンク】
Matthew Belanger et. Covid19 and Disparities in Nutrition and Obesity, NEJMp2021264
その他、The New England Journal of Medicineで閲覧できるCOVID-19に関する論文
その他、The New England Journal of Medicine 日本語版で閲覧できるCOVID-19に関する論文

日本には、コロナ禍が食生活におよぼした影響に関する研究・調査が少ない現況があります。コロナ禍の経験を将来に活かすには、栄養状態に関する客観的数値のエビデンスを、ひとつでも多く集めておくことです。そのために、あらためて感染者・重症者の栄養状態の調査の必要性を訴えたいと思います。

栄養状態が悪ければ、感染症にかかりやすいですし、感染症にかかれば、栄養状態は悪くなります。免疫機能に栄養(つまり日々の食事)が関係しているということを、多くの人々が意識する社会になることを願っています。

コロナ禍で学ぶべきは、人間と自然の関係

コロナ禍を経験して、あらためて自然の恐ろしさを感じた方は多いと思います。海も山も川も、たくさんの自然災害を引き起こします。

私たちは、災害を防ぐため、防波堤を作ったり、山を切り拓いて、ダムを建設したり、治水対策をしたりして、自然を“ほどよく”調整していかなければなりません。

この“ほどよく”の塩梅が難しいのです。では、何の根拠に基づいて私たちは自然に手を入れていくのかといえば、それは科学です。客観的な科学的エビデンスに基づいて自然をほどよくコントロールしていくしかありません。

昔、人々が頼りにしたのは科学ではなくて、宗教でした。仮に今回のパンデミックが江戸時代に起こっていたら、ほとんどの人々が神社仏閣にお祈りに行ったでしょう。

もちろん、現代でもお祈りに行く人はいますが、今、私たちがもっとも頼りにするのは、なんと言ってもワクチンです。今回のメッセンジャーRNAワクチンは、最先端の科学技術の成果といえます。

一方で、“科学は絶対ではない”ということもまた、忘れてはなりません。科学技術が発展してきた歴史は、それまで真理とされてきたことが廃れていく歴史でもあります。

しかし、だからこそ、若い科学者は、次の新たな真理を求めて、一生懸命に研究する。そしてその情熱が科学を発展させてきたわけです。

科学は論争で発展していく方法論であり、レンガを積み上げるように、古い真理の上に新たな真理を重ねて発展してきました。そして、大切なことは、それが今も続いているということです。

栄養学でいえば、我々は今、40種近い栄養素を発見していますが、まだ未知の栄養素が見つかるかもしれません。江戸時代の平均年齢が50歳代だったことを考えると、明治維新からわずか150年ほどで100歳まで生きられるようになったのは、科学、医学、栄養学の進歩のおかげです。これからも、科学を過信しないよう謙虚な姿勢で研究に取り組んでいくことが大切です。

14世紀、中国または中央アジアから始まったとされるペストの流行がその後ヨーロッパに拡大し、世界的なパンデミックを引き起こしました。このときは収束におよそ20年かかったとされていますが、それに比べれば、新型コロナウイルス感染症は、短い時間で解決に向かっていくと推測しています。

人間は自然の猛威にさらされると、自分の傲慢さに向き合い、反省し、謙虚に考えるようになります。ですから、ペストによる大混乱の時代のあとに、ルネサンスが到来したように、コロナ禍のあとには必ずいい時代が来ると私は信じています。

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