コラム

今こそ、みんなで食事を語ろう!人生100年時代を生きるために

2021.11.1

人生100年時代を生きるために

超高齢化社会を迎えるにあたり、健康意識の高まりから、栄養バランスを考えた料理のレシピが雑誌やインターネットに掲載されているのをよく目にします。これらの記事は、栄養の知見を「料理」に落とし込んでいるといえます。しかし、それだけでいいのでしょうか。

たしかに、私たちは料理を食べることによって、栄養素を摂取していますが、食べるという行為には、もっとたくさんの社会的背景や文化的要素が含まれているはずなのです。そうであるならば、「料理」よりも、もっと大きな概念について考えるべきではないでしょうか。

では、そのような概念とは何でしょうか。「食事」である、と私は考えます。食事は「食べる事」を言います。つまり、食に関係する多種、多様な事項が含まれる概念を意味します。ちなみに、「食」という漢字は「人を良くする」と書くので、食事を拡大解釈すると、人を良くするために関係するさまざまな事柄が含まれていることになりなす。要するに、食事には、料理よりももっと多くの事象が含まれているのです。

いつ、誰と、どんな食材で作った、どんな料理を、どんな環境で食べるのか。「食事」について考えることこそ、人生100年といわれる時代を、心身ともに健康に、幸福に生きる術になるでしょう。

インターネット時代の落とし穴

長年、私は教育の現場で管理栄養士の育成に努めてきた経験から、今の時代には、食事について多面的に考え、思考し、言葉にしていく努力が求められていると感じています。たとえば、学生に「どんなお昼ご飯を食べたの」と聞いてみます。すると、彼らはスマートフォンを取り出して、「これです」といって、食べた物の写真を見せるのです。

しかし、さらに踏み込んで、それがどんな味だったか、どんなおいしさだったかについて聞くと、彼らは自分の言葉でうまく語れません。事象について考え、抽象化し、言語化し、ストーリーを作ることに慣れていないと感じます。彼らが無知なのでは決してありません。

むしろ、すぐにスマートフォンで調べられるので、昔に比べてとてもたくさんの言葉を知っています。物事もよく知っているのです。その証拠に、提出されるレポートは、いろいろな情報を集めて、整理し、見事にまとめられています。しかし、実際に彼らと会って話をすると、なかなか自分の言葉で語ることができません。

自分の物語を語れないのです。やはり物事を抽象化し、言語化することに慣れていないのだと感じます。

また、彼らはインターネットですぐに調べるので、ひとつの物事について、一瞬で同じような結論にたどり着いてしまいます。そうなると、誰かが根本的な間違いを犯したり、誤解したりすることが極端に少なくなってしまいます。ここにも私は問題があると思います。

とんでもない発明や発見は、偉大なる失敗から生まれるという事実を、あらためて考えてみる必要があります。間違いや勘違いをきっかけに、人とは違ったプロセスをたどった人間だけが、ノーベル賞を獲るような世紀の大発見にたどり着けるのです。そして、それがいつしか大きなイノベーションにつながります。間違いは、悪いことばかりではないのです。

ですから、常識にとらわれず、誤解を恐れずにいえば、“とんでもない発想”が生まれるような場を作ることが必要です。今、求められるのは、さらりと答えを提示するのではなく、みんなの頭を悩ませるような問題提起をするWEB媒体なのだと思います。

食事が私たちを幸せにする

こうした問題意識を踏まえつつ、このDOUMAという媒体で、私は栄養学の知見を大切にしながらも、そこに固執せず、幅広い視野で「食事」をについて考えていきます。

キーワードは「食事」を「選ぶ力」です。

ひとことで「食事を選ぶ」といっても、健康を考えて食事を選ぶ、食事を食べる環境や場所を選ぶ、地球環境の未来のために食事を選ぶなど、いろいろです。もちろん、楽しむためだけの食事があってもいいのです。当然ながら、食事なしに生きられる人はいません。

ところが昨今、日本は経済格差が広がり、子どもの貧困や若者の貧困が、社会問題となっています。その日の食事にありつけるかどうかさえ、わからない人が増えているのです。

毎日の“食事へのアクセス”をどう道筋をつけるのか。この点も社会全体で考えていかなければいけないでしょう。

また、食事をとりまく“食環境”の問題とは、すなわちフードロス問題や食品のトレーサビリティーの問題、人口増加による食糧不足や海洋資源枯渇の問題であり、課題が山積しています。日々の食事を考えることは、農業、漁業、畜産業から、食品メーカー、スーパー、レストラン、家庭まで、すべてが食事の現場に関係しているとご理解いただけるでしょう。

“食事の持続可能性”は、社会の持続可能性、そして地球の持続可能性の問題であり、SDGsが掲げる課題と直結しているのです。ですから、「食事」に関するあらゆる専門分野を軽やかに越境しながら幅広い知見を吸収し、総合する力が今、求められています。こうした思考力を養うことが、「人生100歳時代」の幸福につながるはずです。

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