栄養学の観点から食品ロスを考える〜中村丁次(日本栄養士会会長)
食の仕事に関わる現場で、あるいは各家庭で、いかに食品ロスを減らしていくかは、地球の持続可能性を考える際には、避けて通れない問題になりました。そこで今回は、栄養(=ニュートリション)の観点から食品ロスの問題について考えてみたいと思います。
「食品ロス」と「フードロス」の違い
日本では、本来は食べられるのに廃棄されている食品を「食品ロス」、肉や魚の骨などのように、「食べられない部分も含めて廃棄される食品」を「食品廃棄物」というふうに分けています。
食品の生産から運搬・貯蔵、 加工・包装、外食・小売り、家庭までの、一連の流れを食品システム(=フードシステム)といいますが、このうち、「生産、運搬・貯蔵、加工・包装、外食、小売り」の工程で生まれる食品ロスを「事業系食品ロス」といい、「家庭」から出る食品ロスを「家庭系食品ロス」といいます。
この分け方は、日本の基準によるもので、世界基準のフードロスの指標では、「生産(農場での収穫後)、運搬・貯蔵、加工・包装の過程で出る食品の廃棄」を「フードロス」、「外食・小売り、家庭で出る食品の廃棄」を「フードウェイスト」というふうにわけています。以下では、日本の基準である「食品ロス」に即して話をしていきたいと思います。
農林水産省の令和元年度食料需給表(確定値)によれば、日本の食品ロス量は570万t。そのうち事業系食品ロスは309万t、家庭系食品ロスは261万tとなっています。これらの食品ロスはすべて、生産から消費までの食品システムの過程で出ています。この食品システムに栄養学の知見をうまく取り込むことができれば、食品ロスの問題に管理栄養士・栄養士が貢献できる可能性があるのではないかと私は考えています。
【関連リンク】
・農林水産省『食品ロスとは』
・一般財団法人 食品産業センター 「食品リサイクル法の基礎知識」
食品ロスをニュートリションロスと考える発想から
それでは、食品ロスの問題を栄養学の観点から考えてみましょう。食品ロスの問題に栄養の観点を加えると、それは単に食品を無駄にしない、というだけでなく、栄養を無駄にしない、ということにもなります。
たとえば、栄養欠乏症を防ぐために残さずしっかり食べ、 栄養を無駄にしない。あるいは肥満予防のために、エネルギーを無駄に摂取しすぎないようにする、ということです。このように食品ロスを栄養のロス=「ニュートリションロス」ととらえることが、まずは大切です。
管理栄養士・栄養士は、どんな栄養がどのように分解され、それが人の体内でどのように合成されていくかを理解しています。この仕組みを、私は「食品システム」に対して「ニュートリション(=栄養)システム」と名づけたいと思います。そして、食品システムとニュートリションシステムの知見をうまく融合できれば、食品ロスの問題に栄養学が貢献できる可能性があると考えています。
たとえば、食品の製造現場である食品メーカーの商品開発部に管理栄養士・栄養士が増えれば、それは企業で求められる経済合理性や環境への配慮を担保しながらも、人々の健康によい食品がより多く開発される可能性があります。
もし、外食産業で働く管理栄養士・栄養士が増えれば、栄養バランスの取れたメニューが増えるだけでなく、現場で出る食品ロスが栄養の損失=「ニュートリションロス」として認識されるようになるでしょう。
各家庭でも栄養学の知識を広められれば、ニュートリションロスを意識しながら、健康的に食品ロスを減らしていけるでしょう。
経済合理性、環境への配慮、そして栄養学の知見……この三つの軸を考慮しながら、総合的判断ができる管理栄養士・栄養士を育成し、食品システムの各所に配置できれば、栄養学が食品ロス問題に貢献できるはずです。
まとめます。食品ロスの問題に栄養学が貢献できる可能性は以下の二点です。
① ニュートリションシステムを理解した管理栄養士・栄養士を食品システムのなかにうまく配置し、食品システムとニュートリションシステムを融合させていくこと。
② そのことによって、食品ロスをニュートリションロスととらえる意識を広く社会に根付かせていくこと。
この二点によって、食品ロス問題を考えるための視野が広がるはずです。
【関連リンク】
・政府広報オンライン『もったいない! 食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らそう』
・消費者庁『食品ロスについて知る・学ぶ』
・環境省『消費者向け情報』
【参考文献】
・『食べる経済学』(下川哲 著/大和書房 2021)P.87〜90を参照