コラム

煮菜(にな)、ぬかイワシ… 雪国の知恵が詰まった朝食 〜「にっぽん」の食卓【新潟県加茂市・農家】萱森家

2023.2.24

冬場の保存食が活かされたあたたかい朝食

萱森家の食事には、古き良き農家の生活の匂いが残っている。ごはんや野菜はもちろん、味噌も漬物もすべて自家製だ。

ごはんは、この家の主人、萱森教之さんが丹精込めて作ったコシヒカリ『伝』。炊き立ての『伝』は、ほどよい粘り気とバランスのとれた食味で、ほんとうにおいしい。萱森さんは炊き方も独自に研究し、その方法をYouTubeで公開している。発芽玄米と白米を半々の比率でブレンドして炊いた発芽玄米ごはんも、ぬかくささがまったくなく、食べやすい。

『伝』のごはん

発芽玄米ごはん。発芽玄米と米を半々でブレンドして炊いたもの。

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かやもり農園のおいしいごはんの炊き方

おかずのメインとなるのは、新潟の郷土料理、煮菜(にな)。体菜(たいな)という菜っ葉を季節の野菜と一緒に煮込んだ味噌仕立ての一品だ。

煮菜

煮菜には、雪国の生活の知恵が詰まっている。体菜は、収穫後、塩漬けにして保存し、使う分だけ塩抜きする。具材のもう一つの主役は、打ち豆。大豆を潰して乾燥させた保存食で、雪国に古くから伝わる伝統食でもある。

塩抜きした煮菜と打ち豆に季節の野菜を合わせてじっくり煮込んであるので、一口すすると、大豆の風味と煮込んだ野菜の甘みが香る。冬の寒さをしのぐあたたかい一杯だ。

冬場の貴重なタンパク源も日本海に面した新潟の保存食から。ぬかイワシは、その名の通り、イワシをぬかに2週間ほど漬けたもの。軒先で萱森さんが炙ってくれた。ごはんのおかずにぴったりだが、スライスした大根で巻いて食べてもおいしい。塩気が強いので酒のつまみにもよさそうだ。

ぬかイワシ

 

艶やかなイクラは、萱森家から車で15分ほどのところにある加茂川でとれたもの。加茂川でイクラ漁が解禁となる11月15日から翌年の2月15日まで味わえる。

加茂川漁協では、とれたてのイクラを販売しており、地元民が朝早くから買いに来るほどの人気ぶりだ。それもそのはず。とれたてのイクラは、つるつるとして、弾力も抜群。口の中ではじけてごはんと一体となる。

そのほか、芋煮、ショウガの塩麹やたくあん、ホウレン草のごま和え、赤カブの酢漬けなど、どれも食材のよさが際立つ、滋味深い味わいだった。また、自家製味噌はもちろん、塩麹漬けなど、随所に麹が使われた食事というのは、米農家ならではの贅沢さだろう。

こうした食事を幼いころから食べて育った萱森さんだが、そのありがたさは、家を離れるまでわからなかったという。

「若いころは、そりゃあ、ハンバーガーにあこがれましたよ。学生のころ、東京に出て、ファースト・フードを食べたときはうれしかったですね。でもね、しばらくすると、実家の食事が恋しくなってくるんです。新潟をはなれたおかげで、農家の食事のよさに気づけたのかもしれません」

鮭の堆肥!? 萱森さんが編み出した独自の米農法

萱森家は、江戸の元禄年間から300年以上続く農家。その11代目にあたる萱森さんは、1987年に就農して以来、独学で米作りを試行錯誤してきた。 

苦労の末に辿り着いた植酸栽培(※)のコシヒカリは、地元加茂川に遡上する鮭の身を発酵させた堆肥を肥料に使っている。かつてイクラをとったあとは捨ててしまっていた鮭の身を有効利用する点は、サステナブルな環境に配慮した新しい農業の可能性を感じさせてくれる。お米の本当の味を次の世代に伝えたいという願いを込めて、萱森さんはこのお米を『伝』と名付けた。

植酸を散布する萱森さん。かなりの重労働でいつも汗だくになるという。

【註】※植酸栽培:化学肥料の代わりに植酸を肥料として使う方法。化学肥料では、硫酸や塩酸などが土壌に残り、根の発育を妨げてしまうが、植物の根から抽出した植酸は、微生物の餌になり、土壌を良好な状態に保つので、根の発育がよくなり、健康な稲穂が育つ。萱森さんはこの植酸栽培に鮭の堆肥を合わせた独自の農法を確立した。

一方、野菜作りを仕切っているのは萱森さんのお母さん。年間を通してさまざまな野菜を育てているが、何をどれだけ作るか、萱森さんはすべてお母さんに任せているという。お米と朝採り野菜を直販している「かやもり農園」には、全国から注文が入る。家族みんなで力を合わせて、お客さんに新鮮なお米と野菜を届ける毎日だ。

萱森さんは、農家の文化を次の世代に伝えるため、地元の一流料理人とコラボレーションしたりして工夫をこらしながら、食材のよさや農家の仕事を体験するイベントを定期的に開催している。農業の大切さ、素材のおいしさ、そして保存食の知恵……伝えたいことはいくつもある。萱森さんの挑戦は続く。

【関連リンク】
かやもり農園
※今回、紹介した食事は、「畑巡りと収穫体験+農家の食事」(4名さま以上より要予約、季節により献立変更、3,500円〜)で味わえます。

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