認定栄養ケアステーション・BALENA(バレーナ) 人気の秘密に迫る!
中村丁次先生(神奈川県立保健福祉大学・学長、日本栄養士会会長)が、横浜市青葉区にある認定栄養ケアステーション・BALENA(バレーナ)を訪問しました。これまでの介護施設のイメージとはまったく違い、通う人たちが「介護されている」と意識せず、日常生活の延長として楽しめる施設を目指しているといいます。常にキャンセル待ちだという人気の裏には、どのような工夫があるのでしょうか。
※認定栄養ケア・ステーションとは?
日本栄養士会が認定する栄養ケア・ステーションを、「認定栄養ケア・ステーション」といいます。地域に住む人々が、食と栄養の専門職である管理栄養士・栄養士に気軽に栄養の相談を受けられる地域密着型の施設です。
人気の秘密① 地域に合った、気軽に栄養相談ができる施設であること
2019年にバレーナを開業したのは、取締役・田中弥生さん(関東学院大学・栄養学部・管理栄養学科博士・教授)。田中さんは、その地域の人たちがもっと気軽に栄養についての相談をできる場所をつくりたいと考えていました。そこでまず、すでにあるデイサービスを3年間かけて調査し、利用者の声を聞いていくことにしました。
「調査をすすめると、デイサービス利用者の要望は、地域ごとに異なるとわかりました。この横浜市青葉区のみなさんは、日頃からヨガやフラダンスをするなど、私たちが考えていたよりもアクティブであることがわかりました。それで、開放的な空間で、楽しく運動をして、気軽に友達と話しながら、自分の栄養状態に合った食事ができるサービスがよいと考えました。施設をおしゃれなカフェのようなつくりにしたのは、そのためです」(田中さん)
田中さんは、食事提供だけでなく、運動や家庭での食事指導、そして身体計測をきちんとしてフレイル・サルコペニア対策までをすることが、管理栄養士・栄養士の仕事であると考えているそうです。
実際に施設を見学した中村先生は、驚いた様子。
「誰でも気軽に栄養相談ができる場所を作ることは、私の15年以上前からの夢でした。しかし実際に開業するとなると資金や経費の問題が大きくて、なかなか実現できなかったんですね。今回、BALENAのきめ細やかなサービスを見て、ようやくここまで来たか、という思いです」(中村先生)
人気の秘密②親身なスタッフによる、きめ細やかなサービス
まず、BALENAに入ると、居心地のよいカフェのような雰囲気に驚きます。そして、笑顔で声をかけてくれるスタッフの皆さんの姿が印象的でした。
「管理栄養士・栄養士は、栄養相談や食事指導だけなら上手にできる方がほとんどでしょう。しかしその先の、個々の人々のその時の気持ちや状態まで理解し、実際の身体測定数値と見比べながら、個別に食事と運動の指導をして、フレイル・サルコペニア対応までを考えていく。体調を崩してしまって、その原因が食事に関係するのであれば、管理栄養士・栄養士が在宅訪問して食事について説明することもあります」(田中先生)
「一人ひとりにきめ細かな対応ができる施設が理想だが、なかなか実現は難しい。こうした施設が全国に広がってほしいね」(中村先生)
人気の秘密③ 栄養指導、運動指導だけでなく、おいしく楽しい食事の提供も
施設に来た人たちは、それぞれの身体計測を元に、個別の栄養指導を受けます。それからフレイル対策の運動をします。BALENAの中にはヨガやストレッチなどが行える運動スペースがあるので、理学療法士による指導を受けながら、無理なく運動できます。
運動のあとは、カフェスペースに座って、食事をします。席についたらまず「食前酢(果実酢)」の入ったグラスを片手に、皆さんとても楽しそうにお話しされているのが印象的です。
「ここに来たら、まるで友達とスポーツジムやカフェに来ているように感じるでしょう。自分が介護施設に来ているという意識を持たなくてよいということは、こうした施設を作る際に大切なポイントですね」(中村先生)
食事の前には、毎月、スタッフが決めたテーマで栄養について学びます。今月は「動脈硬化予防月間」でした。ここで学んだことを、家庭の食事にも活かしてもらうことで、よりフレイル対策の効果が高まるのです。
料理は、市場から材料を仕入れ、栄養価はもちろん、季節感とおいしさにもこだわって作られています。
「一般的な通所介護の3時間という時間内では、食事まではなかなかできません。そうすると、せっかく栄養指導と運動指導でフレイル対策の知識を得ても、家に帰ったら栄養価の高い食事をせずにカップラーメンで済ませてしまうことがよくあるんです。それではフレイル対策にはなりませんし、かえって体重が減ってしまう例もあります。フレイル対策には栄養と運動の両方からのアプローチが絶対に必要です。ですからここでは、最後にしっかり栄養バランスのとれた食事をして帰っていただきます」(田中さん)
食事のときに、必要な人には「栄養スープ」が提供されます。
「この栄養スープは、1mlあたり1kcalとなっています。200m入っているので、200kcal摂れます。このスープで体重が増えたと喜んでもらっています」(管理栄養士・永井さん)
さまざまなタイプの栄養ケアステーション
栄養ケアステーションは今後もニーズに合わせて多様化していくだろうと考えられます。
BALENAのある横浜市青葉区には、青葉区医師会立の認定栄養ケアステーションがあり、そこでは医師会に登録している管理栄養士が、クリニックなどで栄養相談をしています。
他にも、日本栄養士会認定の機能強化型認定栄養ケアステーションがあります。ここでは栄養指導だけでなく医療が必要な人に対して、医師・看護師・理学療法士・薬剤師、そして管理栄養士が所属して、介護報酬や診療報酬が算定できるような施設となっています。
こうしたさまざまな施設が連携し合って、地域の健康を守ることが、これからますます必要となるでしょう。
BALENAのこれから、認定栄養ケアステーションのこれから
今回訪問したBALENAの利用者の満足度は高く、地域の評判もよいのですが、問題点もあります。それは、まだ限られた人しか利用できないということです。今回取材した2022年4月時点で、1日の利用者の定員は約10名。大きな病気はないものの、健康に少し問題を抱えていることで家にこもりがちになってしまっている人たちにも、早くから介入して栄養指導ができれば、病気やケガに発展するのを防ぐことができるはずだと田中さんは考えているそうです。
「コロナ禍で家にこもりがちになってしまい、食が進まない方が増えています。そうした状態が続くとフレイルになってしまいます。そういう方たちをどうやって外に連れ出していくか。現時点ではとても難しい課題ですが、管理栄養士・栄養士がもう少し在宅訪問ができるような仕組みをつくることが必要でしょう。」(田中さん)
現在BALENAでは高齢者のみを受け入れているのですが、今後は高齢者だけでなく、地域の健康と食事に関するさまざまな問題全般を、栄養ケアステーションが担っていければよいと田中さんは考えているそうです。「地域共生社会」に向けての拠点となでしょう。
管理栄養士・栄養士がプロフェッショナルとして働ける場所作りとしても
管理栄養士・栄養士のなかには、退職後も働きたいという人たちが少なくありません。地域にいる多くの管理栄養士・栄養士が、地元の栄養ケアステーションでそれまでの知識と経験を活かせれば、地域共生社会は大きく発展するでしょう。
「管理栄養士・栄養士とは、すべての人に必要不可欠な栄養に関わる職業です。そう考えると、もっともっと仕事の幅をひろげられると思います」(田中さん)
「栄養の全体像を学んでいるのは、管理栄養士・栄養士しかいません。ですからこの人たちが旗を降らなければ、栄養をきちんと伝える施設はできないんです。ぜひ、自分からやろうという管理栄養士・栄養士が出てきてほしいですね」(中村先生)
認定栄養ケアステーションが、管理栄養士・栄養士が活躍できる職場として広がり、地域共生社会に大きく貢献することを願っています。
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