閑休自在 悠々自滴 異口同飲 西村佳也・長谷川好男・著

ウイスキーの魅力を多方面から語る。食欲がそそられる一冊

本書はかなり特異な食の本です。

かつて、毎月第4日曜日の「朝日新聞」TV欄に掲載されていた『サントリーウイスキー山﨑』の広告を集めた一冊です。

この広告シリーズは、とても評判が良く、1986年3月から1998年4月まで13年間にわたり134回掲載されました。基本のデザインは広告掲載時の原寸のまま(天地247ミリ、左右85ミリ)で、一般書籍としてはかなり縦長の変形本です。

表紙を開くとまず初めに、直木賞作家・村松友視氏の筆になる「贅沢なたくらみ」と題した一文が載っています。この本に収められた134篇の文章(広告コピー)について、端的且つ味わい深く綴られています。

「〜その時どきの歳時記的テーマを選び、そのテーマとなった事柄に関する思い入れ、こだわり、知識、教養、蘊蓄、含蓄、洒落、諧謔、ノスタルジアなどをめぐったあげく、最後に“ウイスキー”を愛飲する愉しさのところへ文章を落し込む。見事な芸の連鎖である。〜」

たとえば以下のような切り口で、ウイスキーの魅力を感じさせてくれます。毎回語られる蘊蓄は村松友視氏でなくとも引き込まれ、酒が恋しくなります。

「木の匂い」森林浴から話は始まり、フィトンチッドという匂い成分に触れ、ウイスキーの個性木樽の香りについて語る。

「草木染」紅花染の赤から、藍染めへと話は進む。染色の草は薬草が多く衣類を染めることは身を守ることであった。私は草木も眠る丑満時にひとりこっそり「琥珀色」に染まる。

「縄文の河豚」『河豚汁や鯛もあるのに無分別』芭蕉の句から始まり、縄文人もフグやお酒を楽しんだことに触れ、五千年前にどこに毒があるのか知っていたことに驚く。はたして白子の味は知っていたのか? と問いながら最後はふぐを肴に“山崎”に酔う。

この本を読むと、一つの食材を多方面から見ることで、こんなふうに新たな味わい方を発見できるのだと教えてくれます。

こうした発見は、毎日の食事をより楽しいものにするために必要不可欠なのではないか、そんなことを教えてくれる本です。

閑休自在 悠々自滴 異口同飲
西村佳也・長谷川好男・著
1,600円・美術出版社

 

山本徹

食に関することが得意なプロデューサー。好きな食べ物はスイカとうどん。有限会社 ハル・コミュニケーションズ・代表取締役。学校法人 服部学園 国際部および、HATTORI食育クラブ・プロデューサーをつとめた後、日本生活文化交流協会・理事長、NPO法人 海のくに・日本・理事など、様々な方面で活躍中。広告やプロデュースの仕事の経験を活かし、日本捕鯨協会メディアコーディネーター、「世界料理サミット2012 G9」総合プロデュース、日本各地の地元の食を活かした地域創生など、食を中心とした活動多数。2019年に立ち上げた魚のさばき方を動画で紹介する「さばけるプロジェクト」は登録者が20万を超える。2020年には国産水産物専門のECサイト「浜チョク」の立ち上げや、アフリカのコートジボワールで、日本のすり身の作り方を伝えるセミナーを開催。現在も新たな食に関するプロジェクトを計画中。