食事を考える一冊

『季節を味わう ご飯と汁』京都志る幸・小堂修平・著

2022.9.1

老舗料理屋さんのご主人による献立帖 〜京都編〜

京都・四条河原町の小路に店を構える「志る幸(しるこう)」は、ご飯と味噌汁の専門店です。この本はこちらの秘伝を学べる貴重なレシピ集です。

ご飯と味噌汁だけ? と思うかもしれませんが、この本に並んだご飯と味噌汁の素朴な写真を見ているだけで、どんどん食欲が刺激されてくるのが不思議です。やはり日本の食事が持つ底力なのかもしれません。

私はこちらのお店に何度か足を運んだことがあります。

「西木屋町通四条上ル西入ル」。京都の方はこれで場所が分かります。(お店の暖簾と行燈には「加茂川の西、河原町の東」とあります。)四条大通りから高瀬川に沿って、西木屋町通を北に向かい、すぐの突き当たり真橋通を西に歩くとすぐのところに、黒塗りの立派な木造家屋が見つかります。

お店に入るとすぐ目の前に、鍵型をした幅広の白木のカウンターが設えてあります。カウンターの内側は畳敷きで、お店の方が注文を取ったり、料理を運んだりします。客は、履物を脱がずにカウンター、あるいはその後ろに並ぶ橋の欄干を模した飾りのある席に案内されます。

まず目につくのは今日の具材を書いた木札の列です。大概十数種類の品数が並んでいます。ここからまずは「汁」を選びます。

「はまくり」「ししみ」と濁点の無い仮名書きが意表を突きますが、これは「出汁を濁さない」という心構えだそうです。ちなみに私の好みは「くしら」と「ゆは」です。

次はお味噌を選びます。甘めの京白味噌とコクのある赤味噌(岡崎と広島府中の二種類の八丁味噌)で、好みの味噌と具材を選び注文します。具と味噌の組み合わせ、そしてご飯物も豊富で、無限の組み合わせが可能なので、何度通っても飽きません。

この本はこのお店の献立を家庭で再現できるレシピ本です。本文は、春夏秋冬4つのパートに分けられていて、それぞれご飯と汁の組み合わせが8種類ずつ登場します。

例えば

春『桜海老ご飯と鯛汁』

夏『鮎ご飯と冷やしとろろ汁』

秋『きのこご飯と呉汁』

冬『だいこん飯と蛤汁』

という具合です。さらに、季節ごとの小鉢も5種類ずつ紹介されています。

パラパラとページをめくり眺めているだけで、そうか、こんな素材も使えるのか! こうやって作るのか! という発見があります。そして味噌汁とご飯を丁寧に作るとこんなにおいしいんだ! と改めて感動します。

今晩からすぐに使えそうな献立もあれば、ちょっと技を要するものもありますが、日々の食事が豊かになること請け合いです。毎日の家庭での食事が楽しみになるでしょう。

文章の端々に、ご飯と汁だけで勝負し続ける京老舗の気概と店主の人柄が滲みます。90年間人々に愛され続けた京料理のエスプリが詰まった、素敵な一冊です。

季節を味わう ご飯と汁
京都志る幸・小堂修平・著
1,430円(税込)・高橋書店