食事を考える一冊

『はち巻岡田の献立帖〜江戸料理の百年』岡田幸造・著

2022.8.16

老舗料理屋さんのご主人による献立帖 〜東京編〜

「はち巻岡田」と言えば、知る人ぞ知る、東京銀座の老舗日本料理屋さんです。

創業百年を超える名店で、川口松太郎、久保田万太郎、花柳章太郎、吉田健一など文壇の名士たちが贔屓にしたことで有名です。奥まった路地に見える玄関は、ちょっと敷居の高い佇まいをしています。この本では、三代目店主・岡田幸造さんが、百年間愛され続ける献立の数々を披露しています。

「はち巻岡田のおなじみ」には、「岡田茶わん」「田楽」「揚げしんじょ」「卵焼き」など定番料理が。その後には、春夏秋冬それぞれの旬の食材を活かした料理の数々が四十種類ほど丁寧に披露されています。「料理の覚書」には秘伝の自家製調味料が紹介されています。これらを常備すれば家庭料理に味の奥行きが加わること必定です。

料理ごとの紹介頁には調理の手順と秘訣が丁寧に書かれています。

「寒さに向かう季節には、やや甘めの味つけも心がけて。」
「鮮度の良い魚をそのままやくのではなく、塩水や酒に漬けてから、しばらく天日干しに。このひと手間が、それぞれのうま味をさらに引き出すのです。」

こんな風に、私たちがすぐに真似できるような知恵もたくさん紹介されています。

巻頭には「はち巻岡田の百年の歴史」「はち巻岡田料理の覚書」などの読み物が、巻末には著名人がお店に送った品々の紹介(店内に飾られているものもあります)や、お店に関するエッセイなどが掲載されています。これらを見ると日本を代表する多くの文化人から愛されてきたことがわかり、圧巻です。

幾多の文人と銀座の旦那集に愛され続ける料理とお店。日々の台所に活かせるプロの知恵と技が、随所に散りばめられた素敵な一冊です。

はち巻岡田の献立帖〜江戸料理の百年
岡田幸造・著
1,660円(税込)・世界文化社