食事を考える一冊

どう考える?「みどりの食料システム戦略」

2021.12.24

みどりの食料システム戦略は誰のための戦略?

「農文協ブックレット」は、農林水産業に関して、今押さえておきたいトピックスを効率よく学べるように作られているシリーズです。ひとつのトピックについて有識者から意見を集めてまとめ、みんなで考えるきっかけとなるよう編集されています。濃い内容ながら値段も手頃なのでおすすめです。

そのなかから、今回ご紹介するのは、2021年5月に農水省が発表した「みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)」について、25名の識者・実践家の提言を集めた本です。

この戦略に対しては、農林水産業に携わるあらゆる立場の人に言いたいことがありそうですし、多くの人が情報を求めているだろうということで、農文協の長年の人脈を活かして迅速に編集されたのがこの本です(みどり戦略が5月に出されて、同年の9月に発行されました)。「みどり戦略」の概要を知りたい方に、最初に読んで欲しい一冊といえます。

みどりの食料システム戦略(農水省のページへ)

この「みどり戦略」には、たとえば2050年までに以下を実現することが盛り込まれています。それは今後30年間の日本の農業を一気に変えてしまうほどの内容でした。

・農林水産業のCO2のゼロエミッション化
・化学農薬50%削減(リスク換算)
・化学肥料30%削減
・有機農業の面積を100万ha(全体の25%)に拡大

この目標は、私たち農業関係者を驚かせました。これまで減農薬や有機農業に積極的ではなかった農水省が、すでに有機農業をやっている人たちでさえ、「ここまでやるの?」と感じるほどのものを発表したからです。

この「みどり戦略」が出された大きな理由の一つに、2020年の5月にEUが、「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」があると言われています。

しかし、ヨーロッパと温暖なアジアでは気候も人口も土地の広さもいろいろと違いますから、ヨーロッパ式のやり方では難しい面があります。

たとえば害虫の問題です。アジアの暑い地域ではどうしても害虫が多くなります。一方、冷涼なヨーロッパでは害虫が比較的少ないため、農薬使用がより少なくて済みます。これは一例ですが、世界の潮流についていくために、アジアはアジアのスタンダードを早急に作らなければ、という思いが「みどり戦略」発表の背景にはあったのでしょう。

まず、この本の最初に収録されている農水省の方のインタビューを読めば、「みどり戦略」の全体像を理解できます。そのあとに続く識者の提言を読み進めていくと、戦略の狙いと問題点がみえてくるでしょう。識者の提言は、どれも自身の経験や研究に基づいたもので、切実なものばかりです。たとえば、有機農業にはゲノム編集などのテクノロジーを活かすべきだと農水省は提言していますが、これに対して専門家が意見を述べています。

このように、今後の農業の課題が網羅されているので、農業に携わる方にはもちろんおすすめですが、それに限らず、食に関わるあらゆる人に読んでもらいたいと思っています。

たとえば管理栄養士・栄養士の方には、給食などに関わる人も多いでしょう。今から調理する食材がどのように、誰によって作られ、どのように運ばれて食卓にのぼるのか。そうした食べ物の背景を知ることで、安心・安全とはどういうことか、食事とは何か、を考えることにつながると思います。

また、消費者の目線も重要です。今の消費者はどうしても見た目で農作物を買うことが多いように思います。その見た目を担保するために農薬を使わなくてはならない一方で、そのために農家の負担が大きくなったり、規格外の農作物が廃棄されたりしています。こうした農業の問題を知ることをきっかけに、私たちの食のあり方を考えていただけたらと思います。

【書籍情報】
どう考える?「みどりの食糧システム戦略」(農文協ブックレット23)
一般社団法人農山漁村文化協会刊 1,100円(税込)

 

執筆者一覧

やまざきようこ(おけら牧場)、内山節(哲学者)、宇根豊(百姓)、鈴木宣弘(東京大学教授)、蔦谷栄一(農的社会デザイン研究所)、小田切徳美(明治大学教授)、吉田太郎(長野県農業試験場・有機農業推進プラットフォーム担当)、齋藤真一郎(新潟県佐渡市・農業)、魚住道郎(日本有機農業研究会理事長)、澤登早苗(恵泉女学園大教授・日本有機農業学会元会長)、植木美希(日本獣医生命科学大学教授)、村上真平(家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン代表)、鮫田晋(千葉県いすみ市農林課)、姜乃榮(住民連帯運動活動家)、関根佳恵(愛知学院大学准教授)、粟木政明(JAはくい経済部)、柴山進(NPO法人アグリやさと)、伊藤由理子(生活クラブ連合会会長)、大信政一(パルシステム連合会理事長)、藤田和芳(オイシックス・ラ・大地会長)、林重孝(千葉県佐倉市・農業)、横田修一(茨城県龍ヶ崎市・農業)、松村務(滋賀県近江八幡市・農業)、木村節郎(山口県田布施町・農業)、菅野正寿(福島県二本松市・農業)